青空文庫の図書カード:No.732
先日、仕事の待ち時間に何の気なしに azur で読み始めたら、面白くてとまらなくなり、Palm に転送して PooK にて続きを読んでいる。あと数ページで終了すると思うと、なんだかもったいない気持ちになってきた。
少し変わり者のお君の描写から物語は始まるが、そのうちフォーカスは息子の豹一にシフトしていく。今みると、「第一部 二十歳」と書いてある。「なぜお君から豹一にシフトしていくんだろう?」と首を傾げながら読んでいたのだが、なるほど、豹一が二十歳になってとある修羅場に直面するところまでが第一部だから、最初から豹一が主人公だったわけだ。京都や大阪の町名がたっぷりと出てきて、当時(昭和10年頃?)の風俗をまったりと楽しみながら読んでいくうちに、第一部のクライマックス。狂気の一歩手前で数を数え続けるところで「第二部 青春の逆説」と来た日には、正直しびれたね。オダサク格好よすぎだよチクショー。
豹一の屈折した性格は、ともすればウチに籠もってしまいそうなものだが、その鬱屈を燃料にして、だからこそ俺は道をふみはずさなければならないのだ、とばかりに突飛な行動に出る主人公は、まったく他に類をみないユニークなキャラクターである。最初はハナタレ坊主のような印象だったが、いつのまにかまつげの長い美少年に。男前は身を助く。鬱屈していても、顔がいいばかりに、いろんな女性が好意的に誤解してくれるのだ。なんといううらやましい。いや、そのうらはらな展開が彼を苦しめるのだけど、その齟齬がまたおもしろいわけ。
「オダサクは“ちくま日本文学全集”を読んでいるから大丈夫」と思っていたのだけど、確認したらこの作品は収録されていなかった。
大局をみる目がまるでなく、目の前の鬱屈にイライラとしているあたりは、ゼータガンダムのカミーユ・ビダンに通じるものがあるかもしれないね(彼は最終的にはちょっと無理して、大局に身を投じたフシもあるけれど)。まだ結末を読んでないのでなんともいえないけど、今の様子をみるとカミーユほどにエスカレート(そして瓦解)することはなさそうだけど。昨年から神林長平の作品を順番に読み返しているんだけど、それが終わったら、織田作之助を読み返すのもわるくないな。