2006年03月22日

『SF画家加藤直之―美女・メカ・パワードスーツ』

てっきり画集だと思っていたんだけど、実際はハンディなB5判でした。そのおかげで、日々の通勤途中に読むことができたのでありがたかった。

この本は、加藤直之氏の絵づくりに対する姿勢が事細かに記されている。それは、できあがった作品以上に興味深かった。たとえばこんなテキストを拝むことができる。
しかし何と言っても描いていていちばん楽しいのは、被弾して推力も失い宇宙空間を漂っていく戦艦である。被弾してただ爆発炎上するだけではどこにでもある戦闘シーンである。今まで描いたことがないのは? 爆発したり、炎上する時の火の広がり方は? 内部の構造を考えながらどうしたら格好よく壊れていくのかを考える。壊れ方にも美があるのだ。そのコダワリがぼくが絵を描く時の原動力となる。
なんという贅沢だろう。この一文に出会えただけでも買った甲斐があろうというものだ。ちなみに、件の「爆発する宇宙戦艦」は、イラストのごくごく隅っこの小さな爆発に過ぎない。通常なら、気が付くはずもない脇役である。そこに、これだけの理屈と情熱が込められているのだ。

この惜しみない理屈と情熱の投入は、パーワードスーツのイラストにも遺憾なく発揮されている。以下は、WAVEから発売された「1/12機動歩兵」のパッケージアートに関する一節である。
次は背景だ。映画でいう大道具。艦内の通路を進んでいる最中だろうか。いや、それだと通路を新たにデザインしなくてはならない。通路をデザインするためには艦内すべてのデザインポリシーを決めねばならないし、艦内の配置図まで必要になってくる。さすがにそれは面倒である。
さすがにそれは面倒でしょう、と思わずこちらも突っ込みたくなる。背景ひとつ描くだけでも、宇宙戦艦(もちろんここではロジャーヤングだ)の艦内配置図まで設計しなければならないと考えることのできる、加藤直之氏が「SF画家」であることの所以ではないだろうか。

パワードスーツに関しては、かなりのページ数が割かれており、特にキットのパッケージアートに関してはこと細かに詳解されているのだが、最後に、「描かれたパワードスーツと同じポーズをキットで再現できるか」を氏は検証する。答えは、少しだけできない部分があったという。しかし画稿を見比べても、ぼくには違いが分からなかった。氏の指摘しているのはカトキハジメ氏が言うところの「マッハの戦い」の領域である。
それならなぜ最初から写真を使わなかったのか。その答えは簡単だ。描いていて楽しくないからである。絵に写し取るだけなら写真を加工すれば事足りるが、それでは写真に撮れないものは絵に描けないことになる。常に訓練していなければだんだん能力は落ちていく。仕上げを大事にするイラストレーターである自分と、描く意欲を大切にする自分。「絵を描く意欲」が勝利することは、ぼくにとって珍しいことではない。ビジネスとしては落第スレスレな感じだ。しかしいったんはトレースしないで完成させている。「正確」な絵を一度見ておきたい欲求に負けた。
さて、冒頭に書いた判型についても、あとがきでしっかり言及されていた。
最初は大きな判型も考えていましたが、すぐにやめました。大きくしたら薄くなるし棚にも入らないので、いつのまにかまぎれてしまいます。
ぼくは、ぼく自身がもっとも読みたくなる本を作りました。
皆さん、この本はコミック本やSFマガジンと同じ棚に置いてください。そして時々と言わずいつでも手元に置いて目を通してください。
きちんと意図された仕上がりであることに、あらためて感心。


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posted by 多村えーてる at 17:14| 奈良 ☔| Comment(0) | TrackBack(1) | BOOKS | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2006年03月12日

アルティメット・オペレーション・プラス第3弾

(栄輝)>テレビ版の最終回について書く前に、「星の鼓動は愛」を観ちゃった。
(A機)>およよ。しかもそうこうしているうちにずいぶん時間が経ってるし。
(栄輝)>そんなわけで息抜きに U.O.Plus のことでも書いておくかと。

UO+百式

(A機)>まぁ、なんてステキな永野メカ。
(栄輝)>金色塗装もなかなかきれいだし、スラリとしたバランスどりがまたなんともエエ感じや。

UO+パラスアテネ

(A機)>毎回 U.O.Plus では大物アイテムがひときわはっちゃけたポーズとってるわけですが、このパラスアテネも気合い入ってますねぇ。
(栄輝)>ポージングもイカスんだけど、バックパックの角度の付け方とか、じつにいい塩梅で。思わず我慢していたHGUCキット買いに行きそうになったくらい。
(A機)>ちなみに肩のパーツを左右で入れ替えてます。こうすると2連装ビームガンを正面に向けて構えられるようになるんですよお。

UO+νガンダム

(栄輝)>今回はどれもデキがよくていまひとつ目立たないけど、このνガンダムはなかなかいいんじゃない? 顔の造形とかしっかりしてるし、ぐっとふんばった構え方が地味に決まってるんだよね。旧1/100キットの高荷画伯の絵を彷彿とさせるというか。
(A機)>バックパックとスカートのはじけっぷりがステキなので背面画像にしましたけど、前から見たときのまとまり具合との対比がおもしろい造形になってるんですよね。
(栄輝)>ちなみにフィンファンネルがついてないからって不満な貴兄もいるようだけど、当時最初に1/144キットを買った経験者としては、いまさら平気だよと強がってみる。

UO+ギラドーガ

(A機)>ギラ・ドーガはなぜか二丁拳銃なわけで。
(栄輝)>なんだかわからないがかっこよすぎ。ギラ・ドーガは各パーツのディテールも、全体のプロポーションも、あまり好みではないんだけど、このアレンジだと気にならないな。
(A機)>ギラ・ドーガは昔からいろんな人がプロポーションいじくってかっこいい造形を発表してましたね。ちなみにこいつもバックパックの跳ね上がり方が尋常でなくカッコイイです。
(栄輝)>今回はどれもアタリだね。MS自体の好みはあるだろうけど、興味のないMSも試しに買ってみるといいね。ブリスターから出してポーズとらせてるうちに、きっと気に入ると思う。
posted by 多村えーてる at 23:06| 奈良 ☁| Comment(0) | TrackBack(0) | 駄目チネラ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2006年03月05日

いま語らないと一生語れない終盤のΖガンダム・その3

(栄輝)>じゃ、ハマーンについてな。まず言いたいんだけど、あのキャラデザインはやりすぎでしょういくらなんでも。ピンクのミンキーモモなヘアスタイル、へんなひらひらした服装、ずっとアステロイドベルトで苦労してたんじゃねぇのかよ。どういう様式であんな格好になるんだよ。なんでそんな奇妙キテレツな格好した女が指導者でみんな平気なんだよ。
(A機)>うわー。よくわからないけどごめんなさい。
(栄輝)>フォウ以上のエキセントリックなキャラクターとして、行くところまで行ったキャラクターデザインとしては正解だったのかもしれないけど、宇宙世紀の世界はファンタジーなのではないかと、頭を抱えたのも事実。というかさぁ、あまりにも取り付くシマのないデザインで、観ていて居心地わるかったんだよなぁ。あっちにはハマーン、こっちにはロザミィじゃなぁ。
(A機)>はぁ。ギスギスした世界でしたからねぇ。
(栄輝)>三揃えのスーツとノーマルスーツとノースリーブの軍服が共存する宇宙空間で、なにをいまらさと言えなくもないけどな。それはともかく、ハマーンとカミーユって、ララァとアムロばりの「邂逅」やってるだろ、あのシーンはゼータの頂点だったと思うんだよ。
(A機)>でも喧嘩わかれしてますよあの二人。
(栄輝)>そう。場合によってはララァとアムロの関係の「向こう側」を見せてくれたかもしれないシーンだったのに、あの二人ときたら、というかハマーンときたら、乙女ゴコロむき出しにして「わたしの生徒手帳にはさんだシャアの写真をみた奴はブッ殺す」みたいな逆ギレしちゃって。そのあとでカミーユとクワトロは、どっちがハマーンを倒すべきなのか、取り合いの反省会までしてみせる。
(A機)>ちっとも名シーンじゃないじゃないですか。
(栄輝)>うん。あの回が名作になりきれなかったこと、『灼熱の脱出』をちっとも超えられなかったこと、それがゼータガンダムという作品がどこに向かおうとしていたかを表しているんじゃないかと思うんだ。それまでハマーンとカミーユはじわじわと呼び合っていたけど、本格的に交わってみたら物別れで、もっと大きな何かを表現することもできたはずなのに、混乱したままでエピソードを消化しちゃったんだよなぁ。
(A機)>よくダブルゼータという続編が決まっていたから、ハマーンとカミーユで決着をつけるはずが、シロッコに相手がすり替わって、ハマーンだけが続投することになったって言われますけど、そういった事情も関係してるんでしょうね。
(栄輝)>どうだろうな。そのへんはいまとなってはどうでもいいことかもしれないな。なにしろ小説ではロザミアで決着つけてるわけだし。たしかに、ダブルゼータのハマーンは、シャアよりもむしろカミーユへの未練でジュドーにアプローチかけていたっていう印象はあるけどな。
posted by 多村えーてる at 12:44| 奈良 ☀| Comment(0) | TrackBack(0) | Ζ GUNDAM | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2006年03月04日

いま語らないと一生語れない終盤のΖガンダム・その2

(栄輝)>ロザミィがブキミすぎたっていうのも、終盤のゼータに対する印象だったなぁ。
(A機)>あんなにアダルトな外見で「お兄ちゃん」は、イヤミ意外のなにものでもないですよねぇ。
(栄輝)>彼女は御大将が盛り込んだ「毒」の最たるモノだったろうな。「こんなの出してもまだ観るの?」みたいな。
(A機)>20年たって世間では、「きみたちが観たいのはこれでしょ?」とばかりに妹萌えの時代になっちゃって…。
(栄輝)>地獄だよこれは。とにかく一連のロザミィ話は、しんどかったなぁ。カミーユが「お兄ちゃんだよ」なんて必死になって呼びかけているのも、辛かった。カミーユ必死なんだよ。体面とか気にしてないんだよ。でも救えないんだよ…(泣)
(A機)>ロザミアっていうキャラクターが、ああして終盤ぎりぎりまでカミーユの物語に入り込んできたっていうのも、ちょっとおかしな印象はありますよね。カミーユはハマーン・カーンとも「邂逅」して、サラ・ザビアロフとも絡んで、とにかく忙し過ぎなんじゃないかと。
(栄輝)>するどい指摘だな。ハマーンとカミーユの関係についてはまたあとで取り上げようか。そんなロザミアだったんだけど、小説のほうではもっと深く入ってきて、物語の落としどころにまでなっているから、それが本意であったかどうかはともかく、ロザミアの存在は小説読んでから納得できたかも。
posted by 多村えーてる at 12:42| 奈良 ☀| Comment(0) | TrackBack(0) | Ζ GUNDAM | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2006年03月03日

いま語らないと一生語れない終盤のΖガンダム・その1

(栄輝)>ゼータの後半って、少し気持ち離れていたかもしれない。そのきっかけになったのは、バウンド・ドックをみたときだった。
(A機)>御犬様だめですか。だめですよねそりゃ。
(栄輝)>まずメカニックとして受け入れがたい要素がてんこもりだったわな。俺、足先を曲げるとツメになりますって変形、好きじゃないんだよ。あのお椀も、あきれかえった。宇宙空間だよ? 三次元機動したら裏側丸見えじゃん。
(A機)>もともとはグラブロの発展形で水中用だったというウワサもありますけど、水中でも同じことですね。
(栄輝)>むしろ、そのほうがタチが悪いわ(笑) なんか見た目に甲殻類っぽくなるからって、防御力あがるわけでもないのに、あの形態になるとビームはじくんじゃないかとか、いかにもそういう演出がありそうに思えてショックだった。耳がイヤだった。フタが腕になるのはありだとしても、それがシールドっぽい意匠になるのがイヤだった。安易にガウォーク形態っぽくなるのもイヤだった。
(A機)>イヤイヤづくしですね。
(栄輝)>そしてなにより、そのネーミングがイヤだったんだよ。
(A機)>あーいがーすべーてさー。
(栄輝)>そう、それだよ。ハウンドドッグがヒットしてたんだよ。それなのに、平気でそういうネーミングにしてくる。現実世界に対してロコツにおもねったネーミング第一号として、嫌悪したね。
(A機)>僭越ながら、第一号はハンブラビでは?
(栄輝)>順番なんてどうでもいいんだよ! とにかくショックだったの!
(A機)>すんません、ネモなんかもけっこうそうかもしれません。
(栄輝)>わかってねーなー。現実世界から元ネタとってくるのはべつにかまやしないんだよ。俺が言いたいのは、出所として志が低すぎるだろってことだよ。ア・バオア・クーなんて無茶苦茶ディープなところから引っ張ってきているものもあったというのにさ。
(A機)>でも、語感を大事にする総監督としては、あのデザインにそういう名前が合うと思ったってことなんでしょう? と食い下がってみるテスト。
(栄輝)>どうなんだろうね。気にしてなかったのかもな。なにせボリノーク・サマーンだもんな。そこはかとなくロシアとか北欧っぽい語感だけど、世間では…。
(A機)>ねぇ(笑)
(栄輝)>御大将は「アニメなんか観るのやめろよ」って気持ちでゼータを作ってたって語ってたことがあるけど、バウンド・ドックは、たしかに「もうやめようかな」と思わせるだけの破壊力があったよ。
(A機)>いまとなっては信じられなーい。そこが運命の分かれ目だったんだ(笑)
(栄輝)>笑うところか? 笑うところかもなぁ。あのアルムの山みたいな景観のコロニーで、ロザミアを回収にきたバウンド・ドックが、おもむろにモビルスーツ形態に変形してババーンって仁王立ちするところとか、もうあきれかえるしかなかったもんなぁ。こんなの冷静に観てられるかって。面白い面白くないを通り越してヘンだろって。
(A機)>ササキバラ・ゴウ氏が言うところのジャンクのさきがけだったのかもしれませんね。
(栄輝)>それまでにも何度かあったとは思うけれど、ゼータがいわゆるファーストと決定的に訣別したシーンだったとは思う。

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posted by 多村えーてる at 12:04| 奈良 ☀| Comment(1) | TrackBack(0) | Ζ GUNDAM | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2006年03月01日

倉田英之『R.O.D』第十一巻

読子・リードマン、十九歳。ドニーと出会ってから5年目、いよいよ特殊工作部へ。紙使いの能力に、いまだ本人は気付くことなく…。

あまねく名作という奴は、ラス前に過去を振り返り、その原点を問うと相場が決まっているようです。『R.O.D』もご多分に漏れず、過去と現在の話がいったりきたり。ここに来てまだふろしきを広げようとしている倉田英之は怪人か。

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posted by 多村えーてる at 15:49| 奈良 ☔| Comment(0) | TrackBack(0) | BOOKS | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする