初の長編小説、だそうである。唐沢兄といえば、毎年何冊もヘンな本を出し続けているわけで、なんだか意外な印象もあるが、考えてみればなるほどそうかもしれない。
古来、、小説の第一作目にはその作者のエッセンスのすべてが詰まっているという。本書もご多分に漏れず、氏のホームペースともいうべき古本をめぐる物語である。古本業界の中でも、なかなか日の目を見ることない貸本漫画にスポットライトが当てられる。小説で貸本漫画を取り上げ、漫画を描く小説であるが故に技巧に満ちた漫画との融合、メタ的な世界観と人間の狂気、日本がクレイジーさに充ち満ちていた昭和三〇年代、そういった氏ならではとしかいいようのないガジェットや舞台背景を惜しげもなく投入した作品である。
映像的な仕掛けも、いかにも「いまどきのCG技術ならできるんだろう?ほら、映画化でもなんでもやってみてよ、ほらほら」と言いたげであるが、当然、そんな見た目の恐怖表現などは氏の眼中にはない。表面的な怖がらせなどは、本作が秘めているどす黒い波動に比べたらたいした問題ではないのである。しかしそんなどす黒い情念に対してさえ深い愛情を寄せる氏の視点は、どことなく優しい読後感を与える。
唐沢俊一『血で描く』[Amazon]
2008年08月23日
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