「ちくしょう、奴ら、とうとうやりやがった。宇宙世紀の住民になっちまいやがった!」
『マスターピース ゼータ・ガンダム』を手にしたときの、最初の心の叫びである。
「狂ってやがる、奴ら、狂ってやがる。あーもう、楽しそうに狂ってやがるなぁ!」
『マスターピース ゼータ・ガンダム』を読み進めるうちにわき出てきた、心の叫びである。
本書を、小松原造型のガンダム写真集としてとらえると大やけどするだろう。意図的なソフトフォーカスの画像に、隔靴掻痒、もどかしさしか感じられないとしたら、それは読者としてはちょっとした不幸である。また、ゼータガンダムというモビルスーツの解説書としてとらえるとしたら、それもまたたいした満足は得られないだろう。ここに記されているのは、あまたある珍説・捏造設定のひとつでしかないからだ。
本書のたのしみは、宇宙世紀(U.C.106年)に片足を突っ込んだままで現実世界を生きている酔狂者たちが本気になって取り組んだフェイクにある。いかにもなソフトフォーカスの画像(宇宙世紀でもこの程度の荒れた画像になっちゃうの?)、折れ曲がったりシワになっているエゥーゴ広報発行のリリースペーパー、裏写りしている新聞紙のスキャン(宇宙世紀でも新聞印刷はこんな線数なの?)。こういった、冷静に考えたらちょっとおかしいんだけど、現実世界と宇宙世紀に共通できるかもしれない「いかにも」のためにあきれるほどの労力をつぎ込んでいる、その編集姿勢やプロセスをたどっていくと、送り手たちのクレイジーさとパッションがページをなぞる指先から伝わってくるのである。
新聞紙のような裏写りしそうな印刷物をスキャンする場合、スキャンする用紙の裏側に黒い紙をひけば裏写りしない。印刷業界の常識である。でも、裏写りしていたほうが新聞っぽいから、わざとそうしているのである(おそらく裏面の記事も作り込んでいると思われる)。新聞独特の網点がばっちり目立つ線数の低い印刷物っぽく、わざわざ画像を加工しているのも、「いかにも」を成立させるためのブリッジとなっている。
宇宙世紀は、ひょっとしたら高解像度の印刷物があたりまえの世界になっていたり、劇場版ゼータで描かれたように電子ペーパーが普及して、新聞紙が消滅している(新聞メディアはあのポワンポワンの電子ペーパーで展開されるはず)かもしれない。しかし、あえてそこまで飛躍はしない。そうしないと、宇宙世紀と現実世界とのブリッジが失われてしまうからだ。
ゼータガンダムのテレビシリーズ放送当時、ウェイブライダーという技術(机上の空論だけど)はまったく世間に知られていなかった。だから、スペースシャトルのオービターがそうしたように、ゼータガンダムは機体底面を突入面に向けて大気圏突入を果たした(リフティングボディによる鈍体突入)。ウェイブライダーという名称は採用されたけれど、その理論は新しすぎて、そのとおりの映像をみせたとしても、ほとんどの人には理解されなかっただろう。ウェイブライダーと現実世界にはブリッジとなるものがまだなかったからだ。当時、スペースシャトルは時代の寵児だったから、しっかりとブリッジとして機能していた。ゼータガンダムのフライングアーマーが黒い色をしているのをみて、「耐熱タイルかな?」と思った貴兄も多いはずだ。
本書が刊行されたとされる宇宙世紀0106年は、現実世界の西暦2006年と並行して存在している。それは、ガンダムの物語がスタートした宇宙世紀0079年が、西暦1979年に世に現れたときから、ずっとそうなのである。
本書を読みながら、あるひとつのエピソードを思い出していた。
いわゆるポケモン、『ポケットモンスター』に「ピカチュウの森」というエピソードがある。旅の途中サトシたち一行は、たくさんのピカチュウが暮らすピカチュウの森にたどり着く。サトシのピカチュウも仲間に加わって、たのしそうに遊んでいるピカチュウたち。「俺も仲間に入れてくれよ〜!」思わず駆け出すサトシ。驚いたピカチュウたちは、ワラワラと森の中に逃げ去ってしまう……。
サトシはピカチュウになりたかったわけではないだろう。電気ネズミになりたいわけではないのだ。ただ、その楽しそうなピカチュウたちと一時を過ごしたかっただけなのだ。
「俺も連れてってくれよ、俺も、宇宙世紀に!」
彼らの仕事にまざりたいとか、そういうわけじゃないんだ。ただ、この本に携わることのできた連中には、素直に嫉妬した。羨望した。そして痺れた。彼らはたしかに、宇宙世紀の空気を吸い込んだ。胸いっぱい。
マスターピース ゼータ・ガンダム[Amazon] [bk1]
2006年10月05日
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Zガンダムの主な武装
Excerpt: Ζガンダム (ゼータガンダム、Ζ-GUNDAM) 『機動戦士Ζガンダム』『機動戦士ガンダムΖΖ』などに登場。 エゥーゴの攻撃型試作可変モビルスーツ (型式番号: MSZ-006) 機..
Weblog: 機動戦士Zガンダム@ゼータガンダムを徹底攻略!!
Tracked: 2006-10-20 09:40
ごちになりますw
「ガンダム・オフィシャルズ」「アナハイム・ジャーナル」を買った者としては、
この時期の発売がちとツラかった。
年末には、グラフィカが出るから…。
楽しめりゃ、大枚はたく価値があるね!
(映画、プラモ、ゲーム、レストランと、つな引きなのさ)
Thanx!