『イノセンス』が『攻殻機動隊』でなかったら、そう思うこともできるかもしれない。士郎正宗の原作コミックに親しみ続けてきた自分としては、押井カラーがノイズのように感じられてしまうんだよね。『SAC』も同じで、これってよくできたアニメ作品だけど、攻殻機動隊じゃないよなぁって。
その微妙な差異についてはともかく、そんな偏屈フィルターを排除して一本のアニメ映画として『イノセンス』を捉え直すと、「これってかなりいい映画かも」と思えてきた。『攻殻機動隊』は男と女の話ではないし、「現実世界とは何か」を問うヒマがあったら戦え、という作品である。一方『イノセンス』はというと、モロに男と女の物語であり、「この世は擬似世界かもしれない」と胡蝶の夢を思い煩いながら生きていく中で人は何を拠り所とするのか、という作品なのである。
人生に必要なアニメ映画を3本選ぶとしたら、『イノセンス』と『ラーゼフォン多元変奏曲』と、あとどれにしようか。トミノの子としては御大将の作品を選ぶべきなんだが、あえて「御大将はテレビシリーズにこそ真髄アリ」と言い逃れして、『劇場版エースをねらえ』もしくは『天空の城ラピュタ』を入れておくことにしよう。生きる活力と、生きる意味と、それを模索することと。
2004年03月10日
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ご紹介いただいた本を,さっそく注文しました。
それはさておき,私にとっての1本も「ラピュタ」が入ります。後は,「カリオストロの城」と「魔界転生(千葉真一版)」ですかね。偏ってますが(笑)
どうも押井守監督の作品って,原作の明るさが無くなっているような気がして,見る度に違和感を少し感じます。
(パトレイバーとか攻殻とか)
原作のイメージから離れると面白いんですが。
おっしゃるとおり、原作モノを手掛けると、大幅にテイストを変えてしまいますし。「カリ城」に続くルパンの劇場版3作目も、押井監督が手掛ける予定だったんですよね。主人公は銭形警部で、ルパンを追い続けているうちに「ルパンは実在しなかったのかもしれない。それは共同幻想のようなものだったのか」なんていう、押井テイスト丸出しで(苦笑)。
『イノセンス』の素子の不在に喪失感を抱き続けるバトーっていうのは、銭形警部の焼き直しなんだなぁって、映画を観ているときに思ったものでした。
生きることの意味を模索したり、彼女のひとことでバトーが救われるっていうシチュエーションは、中年に向かうオタクとしては、ビビビッとくるものがあったわけで。
でも、原作の『攻殻機動隊』を読み返したら、「やっぱりこっちのほうがいいや」と思ってしまいました(笑)